12 人形に表情と命を
人形は一人では生きられません。心を通わすことも、夢みることも、恋すらできないのです。
感情のない姿は、切り抜いた絵のように、さめた悲しい表情しか届けてくれません。
切ない人形たちに、せめて「喜び」「楽しみ」「優しさ」「幸福」を与えてあげたい、との想いで私はいつも人形と相対し、人形に語りかけています。
人形をつくるときは、人形と同じ心で「泣き」「笑い」「怒り」、人形とともに演技してみるのです。
つくる苦しみのなかから美を生み出し、人形に想いを与えると、人形は作り手の心を受け止めて雄弁に語りはじめます。
そうして、見る人の心をとらえるからこそ、人々に感動を与え楽しんでもらえるのです。
人間は人形の美しさを求め、人形は人間の心を受け止め、お互いに励ましあい努力しているのです。
つくり始めた瞬間から人形に魂が入り、作り手の分身として生まれ変わるのです。
人形はたとえ悲しくとも苦しくとも美しく、見る人に喜びと幸せを与えることが使命と思って頑張っているのでしょうか。
作者もまた、人形にあらゆる表情を与えるために努力しているのです。
私の人形たちは、これから先も、その姿のまま精いっぱい自己主張しながら生き続けていくでしょう。
恋をし、愛を知り、命を燃やしたままの人形たちがとてもいとおしく、いつまでも抱き締めていたい想いです。
作品「桜吹雪」
作品「かえり道」