05 夕顔化粧
「越中おわら風の盆」を見に出かけた折のことです。
町中に数千の雪洞、万灯、幔幕が飾られ、二百十日の秋風に乗って胡弓、三味線、太鼓、尺八の音に合わせ、男も女も老いも若きも編み笠で顔を隠し、三日三晩、夜の白むまで踊りに酔いしれて流して歩く風の盆。もの悲しげな胡弓の音色に溶け込むように踊る幻影は数百年前の精霊たちの宴か幻か、この世でない世界にいるのではと不思議な幻覚を見る思いでした。
夜半を過ぎ、遠ざかってゆく胡弓の音に心惹かれる思いで帰路についたとき、ふと町外れの軒先の闇の中にぽっかりと咲いている「夕顔」の花が、手招きをして私を誘い込むのです。
妖しい花の香りと風の盆の宴に酔った私がその花に魅せられつい手折ってしまうと、手のひらのその白い花から、一夜限りの儚い命を嘆く声が確かに聞こえたのです。
花の哀れを感じ、それはまるで泉鏡花の世界へと入り込んだような、夢か現かわからない衝撃でした。幾百年も生きつづけた花の精が私を引き寄せ、人形に想いを託したかったのかと、今もあの夜の事が走馬灯のように蘇ってくるのです。
こうして作品「夕顔化粧」は生まれました。闇の中で咲いていた妖しい白い花の面影を映すかのように優雅に楚々として、白いうなじは花の精が乗り移ったかと思われるほどに美しいのです。風の盆の幻影と夕顔の花がひとつとなり、完成した人形にひとしおいとしさが増し、いつの世にまでも美しく夢の中で咲きつづけてほしいと願っています。
夕顔化粧
一夜限りの夕顔の花