06 真夜中の大乱闘
私は静かな真夜中を好んで人形制作をするのですが、ちょっとその様子をお話ししましょう。
私の箪笥の中の古布たちは、それぞれに、気の強い布(しっかりとした色合い)、優しい布(柔らかくかわいらしい色彩)、静かな布(あまり目立たない古風な柄)と、個性を持った布たちばかりで、大変わがまま気まま、気位が高く、自己主張ばかりして私を困らせるのです。数点を選び出し、この作品には……と手に取って眺めようものならさあ大変、まるで人柄が、いや、布柄がすっかり変わってしまい、我こそはと騒ぎ立てるのです。
まず声をかけてきたのは赤いちりめんのかわいらしい花柄。「この美しい柄と色合い、きっとあの人形にぴったり。素敵なこと請け合いです」と自信満々にささやきます。すると、気の強い布が飛び出してきて、「とんでもない。私こそその人形を満足させて喜んでもらえるわ。だってこんなに美しいのですから」と得意げになって私を脅迫するのです。
しかし今度は人形たちも黙ってはいません。この布もあの布もイヤイヤと拒絶し、自分が気に入らないとツンとしてそっぽを向き、どうしてもなじんでくれません。そこに私の頑固も加わり、三者三様の大乱闘が始まります、まるでおもちゃ箱をひっくり返したように……。
騒ぎは一向に収まらず、やがて朝日が昇り始めるころ、今までの凄まじさは一体何事だったのかと思うほど、どの布も人形も、そして私も皆疲れ果て無口になってしまうのです。
じつは、この真夜中の闘いが私は大好きです。布や人形とおしゃべりしながら、ほほ笑んだり、むきになったり、長いにらみ合いも、私にはすべて人形づくりのための楽しいひとときなのです。そして、仕上がった人形を見て満足すれば最高に幸せなのです。
布選びの苦労の末に作り上げた作品
「旅役者」前
「旅役者」後